演劇ユニットG.com

のりピー

そりゃ薬はいかんよ。言うまでもないことですが。

しかし、のりピーという人は昔から不幸の影の絶えない人でした。
芸能人にはままあることですが、家族に恵まれなかった。 交通事故で死んだ父親はどうも堅気じゃなかったような記憶がある。
弟もあの調子、カネをたかられたりもしたこともあったのかもしれないし。そういう、家庭に恵まれないしっかり者に限って、亭主もまたろくでもないのがくっ付いてくる。背負えるとなるといくらでも荷物が増えていく。押しつぶされそうな重圧と戦い続けなきゃいけない。
そして、日ごろの憂鬱に関係なく、超ハイテンションが 要求される芸能の仕事。薬の力を借りてでも気分を盛り上げたいという願いは切実だったんだろうなあと。

短気を起こさず、出頭してきたことは何より。生きてさえいれば、またいいこともあると思うのだ。まだまだ若いのだから。

Free at last

G.comとは関係なく戯曲の読書会をやっているのですが、そこに70歳代のもと新劇少女がいらっしゃる。先日、マキノノゾミさんの『東京原子核クラブ』を取り上げ、なかなかに読み応えがあって素晴らしかったけれど、その方がこんなことをおっしゃった。「マキノさんの戦前の生活の描き方には時代感覚のずれを感じる。戦前の生活というのはもっと悲惨で・・・。庶民は上の方針に必死で付いていかないと生きていかれないという時代でした。庶民の生活は真面目で、本当に苦しかった」。戦前と言えば東京・大阪を中心に、ある程度の中産階級が発達し、雑誌文化やジャズクラブや寄席、映画にそれこそ演劇といった文化も花開いており、向田邦子が『あ・うん』や『父の詫び状』で書いたようなサラリーマン家庭もあった。そう思うと、苦しくて真面目で、というのはこの方が感じた、ある一面でしかないのだろうけど、だからこそ身をもって知る人の、胸を突くような真実の言葉であった。「上の方針に付いていかないと生きていかれない」。つまりは生の主体性が奪われている。自分の人生を自分で決められない、その苦しさ、惨めさ。

 

 実は戦後もそれって、そんなに変わらなかった。ある時期までは。たとえば今回の『金の卵 1970』で、染め職人の竜二が「白衣の天使と戦災孤児の染め職人じゃ、釣り合いとれねぇもんなぁ」という台詞があります。意味はわかる、もちろん。でもふと考えてみると「釣り合いとれない」ってどういうことなんだ? 戦前生まれの三浦実夫さんが書いたこの言葉の重みは、今となってはなかなか理解できない。おそらくは幾多の恋が「釣り合いとれない」の一言で抹殺されてきた。身分とか、分相応といったもの。そこには、ぎりぎりの人生を歩む人たちの命がかかっていた。その時代、「食う」ということはそんなに簡単ではなかったから。飢えて死ぬということはよくあることだったから。だから、力ある人にくっついて、屈従して、何が何でも飯を食わなきゃいけなかった。身分秩序を犯してはならなかった。

 

 1960年から70年というのは、それが大きく変わり始めた時期なのだ。生活が豊かになり、選択肢が増え、屈従しなくても食えるようになる。『金の卵 1970』では竜二は看護学生の風子と結ばれるし、同じく職人の鉄男も女医の夏子と結婚している。その時代、いかにささやかであろうと、身分を越えて好きな人を好きだということが、一つの革命だったのだ。

hitoshirenu tohki taninite

 昔は四畳半の片隅に転がっているビー玉しか美しいものがないなんて家もざらにあったに違いなく、それはさぞ鮮烈な美しさだったろう。縁日のちょうちんの明かりの下、水ヨーヨーの赤や青がぐるぐると回る。それで充分に満たされて、その日その夏を過ごしていく安らかさ。

 

 もう17,8年も昔、千葉県の外房の農村に2年駐在して、そこは毎年5月になると蛍が群れを成し、それも8時前後の30分ぐらいがピークで、その後は全く消えてしまう。蛍の群れは、一斉に明滅する。数千匹、数万匹という群れがどのようにしてペースを合わせているのかは、完全には解明されていない。

 

カメラを構え、蚊に刺されるのも厭わず光を追った。儚きもの、写真を撮り、記事にはしてみても、決して定着できない一瞬。記事もまた蛍の点滅よろしく、どこかへと消えうせて、今では行方もわからない。だからこそ良かった。

 

 アフリカのある地方では、年に一度だけ、大きな峡谷を蛍の光が埋め尽くす。しかしそこは前人未踏の地だ。ふんだんにばらまかれる光を、誰一人、見る者もいない。水を飲みに来たジャッカルやレイヨウの、黒いガラス球みたいな目玉に光が映る。その時、彼らが何を思っているのかはわからない。

 

 やがて、明滅する光は谷におさまりきれず、あふれ出ようとする。それは、間もなく明滅の時間が終わるしるしなのだ。人間とは無関係に存在する、底知れぬ豊かさ。限りない美。一瞬後に消えうせる、この世の奇跡。この世が存在すること、そのものの中に。
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