『闇の奥』の奥 - 演劇ユニットG.com

『闇の奥』の奥

とは言っても、主催三浦の「闇好」とか言うポエムとは何も関係がありません。
「『闇の奥』の奥―コンラッド/植民地主義/アフリカの重荷」藤永茂著 三交社
岡田

次のあちきの作は、コンラッドです。代表作は『闇の奥』。だけんども、さすがに荷が重い。まだまだ『闇の奥』を脚色できるほどの腕は無いとか言う事で。『フォーク 回想』なんですけんども。ちょうど、千羽鶴も終わったし。なんやかんやと調べていた内の一冊です。

著者の藤永 茂は、コンラッドの『闇の奥』の新訳を出版した量子化学専攻の元カナダの大学教授です。闇の奥は「地獄の黙示録」の原作。19世紀末のアフリカで、武力で奥地に王国を築いた人間を連れ戻しに行く話。黙示録だと、ラオスのジャングルの奥地に暗殺に行く話になっている。まあ似た話です。でも、現在の「闇の奥」の評価は、当時の植民地主義に対する告発の本として非常に高い評価を得ているとか。
そんでもって、著者の藤永氏は、そこに反対している訳です。他にも、北米で差別されたインディアンの話とかも書いているので主張は分かる。確かにコンラッドは、白人優先主義だし、黒人に対する差別意識もある。植民地政策に対しても、否定はしていない。

でもね、不思議なのは、だからと言って量子化学専攻の学者が新訳までだして非難するのかなあ? と言う所です。まして、この新訳良いんですわ。岩波文庫の中野好夫訳は、古いし難解。大体の人は途中で投げ出す。光文社の古典新訳文庫の黒原敏行訳は、読みやすいんだけれどもハードボイルドになっちゃってる。
それに凄いのが訳注、本文が180頁前後で、訳注が60頁もある。化学者の厳密さでは説明できない、なにか異様な執着も感じる。

文学者は、聖人ではないし、ましてや道徳家や政治家でもない、プルーストは「神をも恐れないのが芸術家」と言っていたが、だとしたら人間的に善でなければならない理由など無いと思う。それに残って行くのは作品。作品の持つどうしようもない魅力と、作家の人間性は全く別だと思う。
作品のどうしようもない魅力に見入られると、それは否定のしようがないが、強ければ強い程否定したくなる。しかしその否定の軌跡自体が肯定の裏返しに見えてくる。なんだか、この本を読んでいてそんな気がした。

コメント[2]

まったくの偶然からこのブログに行き当たりました。神様のお導きといった感じです。誰しも好意的な書評をしてもらえば嬉しくなるに違いありませんが、岡田さんの評言は私にこれまで最高の喜びを与えて下さっただけでなく、胸にドンと響きました。コンラッドの『闇の奥』に対する私の行為が一つの文学批評であるとすると、すぐれた文学作品自体ののっぴきならぬ魅力と重みにくらべて、批評というものの浅薄さを、私自身、認めざるをえません。作家で本屋さんの藤谷治さんからも、岡田さんと同じようなご指摘を頂きました。藤谷さんの近作『遠い響き』の下敷きの一つはコンラッドの『闇の奥』だそうです。『闇の奥』を下に敷いた小説として私が最も感銘を受けるのはセリーヌの『夜の果てへの旅』です。
G.comのお仕事の発展を祈念致しております。       藤永 茂

No.18の藤永 茂さんのコメントへの返信

好き勝手に書いているブログな物で、まさか著者の方に読んで頂けるとは夢にも思っていませんでした。勝手な事を述べまして、もし失礼な点が有りましたら、お許しください。

改めまして、返信を頂き、ほんとうに有難う御座います。

現在、44歳で演劇に関係していますが、『闇の奥』は大学のとき読んで以来、ずっと戯曲化したい本です。映画・小説の世界では、とかくさまざまに言われるコンラッドですが、なぜか舞台と言う話を聞きません。ただ、ここ数年で、藤永先生の新訳、光文社古典新訳文庫と立て続けに新訳が出され。また先生の「『闇の奥』の奥」と、いろいろ興味惹かれます。特に、中野訳では分からなかった、実際のコンゴでの背景など、非常に参考になります。

長年、演劇に惹かれているものの勝手な解釈なのですが、コンラッドの「Wilderness‐荒野」は、ソフォクレスの『オイディプス』で、オイディプスがそうとは知らずに父親を殺し、母と姦淫し、その事実の前に両目を刳り抜き彷徨い出るテーバイの外の「荒野」、シェークスピアの『リア王』で、娘に裏切られたリアが半狂乱のまま走り去っていく「荒野(Heath)」と同じように思います。

もちろん、Wildernessはアフリカ(コンゴ)の奥地な訳ですけれど、あの本の持つ不思議な魅力、非難も称賛も含めてですけれど、その魅力の有りかと言うのは、作家コンラッドの意図は別にして、ヨーロッパ自身が持つ本来の「荒野」がふっと顔をもたげてしまった所に有るようにも思います。

現在、コンラッドの短編『フォーク‐回想』を、なんとか戯曲化しようとしていますが、なかなかはかどりません。藤谷さんの『遠い響き』まだ未読のため読んでみようと思います。セリーヌも久しぶりに本棚から手に取ってみました。

若輩ものですが、なにか御座いましたら宜しくお願い致します。

  岡田久早雄