皇帝 - 演劇ユニットG.com

皇帝

北京という町は割に頻々(ひんぴん)と名前が変わっていて、かつては北平と言ったり、大都と言ったりした。私はそのうち、どの時代だったか、皇帝の兵の一人となって、閲兵式に参加しているところである。

 

甲冑に身を固め、弓矢を担いで広い広い宮城前の広場に並んで立っている。はるか遠く、霧に霞むぐらいの遠くに建物があって、皇帝はその中におわす。隣の男が隊長の目を盗んで話しかけてくる。同じ山奥の村から出てきた幼馴染だ。

 

「どうも皇帝様ってのは人間じゃねえみてえだな」と男は言う。「そうらしいな」。自分も答える。聞くところによると神様なんだってな。金色に輝く衣をまとって、まともに見ると目がつぶれるんだそうだ。

 

「んにゃ、違うってよ」と幼馴染が言う。「おれが聞いたとこじゃ、何でも親指くれえしかねえらしいぞ」「んな馬鹿なことあるかよ、虫じゃあるめえし」「いやいや、皇帝様のうちじゃ、子どもが生まれる度に小さな箱に入れて育てて、大きくならねえようにすんだと。それできょうでえどうし結婚させっからよ」「へえ、なんだよそりゃ。血が濃くならねえのか」「まあ皇帝様だから、下々のもんとは違わあな」「なるほどな」「で、代々もっともっと小さな箱に入れて育てたから、今じゃすっかり、指くれえの大きさしかねえのさ」「何でそんなことすんだよ」「知らねえよ、皇帝様の考えることだからよ」

 

「はあ、でも不便なこったろうなあ」と私が言うと「馬鹿かよ」と男は笑った。「身の回りのことはみんな宦官(かんがん)がやってくれんだよ。箸一本、扇子一つ持つ必要がねえのさ。移動はいつも輿(こし)だから、どこへ行くにも心配ねえ」「はあ、なるほどなあ」「おれらとは違うんだ。いってえ何が不便なことがあるかよ」私はすっかり感心してしまった。

 

そうして俺ら、数十万の兵隊が、その虫みたいな皇帝のことをこうして拝んでるってわけだなあ。そうともよ。あの建物の奥に、立派な、手のひらに乗るぐらいの金の箱があって、その中に綿でくるまれて、皇帝が寝てなさるんだよ。私はうっとりとその綿の布団の肌触りのことを考えた。その中で蚕みたいにうねうねとくねる皇帝の身体のことを。自分もいつか、そのように綿にくるまれて寝ることができはしないだろうか。薄い金色の光の中で。

 

その時、私の周囲でけたたましい悲鳴が上がった。隣の幼馴染を見ると、裂けた地面に飲み込まれる直前のような恐怖の表情を浮かべていた。悲鳴は前からも後ろからも上がっている。戸惑う間もなく、頭に一撃を受けて倒れた。隊長の声がする。「お前、何をしたか分かっているのか?お前のせいで、隊全員が皆殺しだ。腕と脚を一本ずつ切り取られ、簡単には死ねんぞ」

 

足元を見ると、小さな芋虫が私の靴に踏みにじられ、緑色の汁を出していた。それが私たちの皇帝だった。