ウェイリー版『源氏物語』
挫折に次ぐ挫折どした。源氏物語。
原文はもちろん、谷崎訳、与謝野訳、円地訳、瀬戸内訳と、「葵上」あたりまでがやっと。「ああ詰まらん。」でも、何故か気になる『源氏物語』。とうとうウェイリー版で五十四帖。
どうも、岡田です。
何か有るなって、ずっと思ってはいたんです。でもまさか。英訳版の日本語訳で、その真価に気づくとはねえ。
アーサー・ウェイリー。20世紀前半の英国の東洋学者、『源氏物語』を英語訳して世界に広めました。確か『老子』の訳もしてて、中公「世界の名著シリーズ『老子』」日本語訳では、ウェイリーの解釈が随所に書いてある。多分、文学的センスに非常に優れた人。
その人の英訳版を、また日本人が現代語に訳してます。
いやあ、面白かったんです。世界に小説、数々あれど、ここまで登場人物の心の襞に丁寧に肉薄した小説はないんじゃあなかろうかって位、見事に書かれてました。解説にもあるけど、心理としてはプルーストの『失われた時を求めて』に近いというのはよくわかる。
これは個人的な感想ですけど。源氏って、極めて政治的な小説だと思うんです。式部は当時の最高権力者、藤原道長と近い人間だし。たぶん、光源氏のモデルが道長というのはあたっていると思う。
政治って世界は、「言葉」ひとつで命が無くなるような過酷な世界だと思う。いまでこそ殺されることはないだろうけど、言葉の使い方を誤ると、政治的には抹殺される。本音がどうとかなんとか、傍からは言えるけど。本音なんか、中途半端に言ったらそれこそ命とり。やんわりと嘘と虚実の甘いオブラートで、両刃の剣を包む位の芸当がないと生きてはいけん世界。
おそらく、その世界で鍛えられたセンスで、世界を冷徹に表現したのが『源氏物語』のように思う。だから、作家の登場人物への共感が、まったく感じられない。あくまで冷静に、幾層にも重ねられた精神の感情のひとつひとつを丁寧に丁寧に刻んでいく。「好き」の層の次には「嫌い」があったり、「憎しみ」の上には「親しみ」が寝そべってたり、「楽しみ」の横に「嫉妬」が渦巻いてたりね。近代のアホな作家は、ひとつの感情に一人の人物を当てたりするけど、現実を見れば、そんなに人間って単純じゃあないよ。
それにねえ、自分の事が一番分からんのに、なにか、自分の理想とは全く正反対の、非常に熱い熱情に動かされて、世界を破滅に追いやるなんてことも有るんだよ。そんでもって、其の事に当人は全く気づいていなかったりしてね。
でもだから、哀れで、哀しいのかもねえ人間って。
ウェイリー版『源氏物語』全四巻 平凡社ライブラリー

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