hitoshirenu tohki taninite - 演劇ユニットG.com

hitoshirenu tohki taninite

 昔は四畳半の片隅に転がっているビー玉しか美しいものがないなんて家もざらにあったに違いなく、それはさぞ鮮烈な美しさだったろう。縁日のちょうちんの明かりの下、水ヨーヨーの赤や青がぐるぐると回る。それで充分に満たされて、その日その夏を過ごしていく安らかさ。

 

 もう17,8年も昔、千葉県の外房の農村に2年駐在して、そこは毎年5月になると蛍が群れを成し、それも8時前後の30分ぐらいがピークで、その後は全く消えてしまう。蛍の群れは、一斉に明滅する。数千匹、数万匹という群れがどのようにしてペースを合わせているのかは、完全には解明されていない。

 

カメラを構え、蚊に刺されるのも厭わず光を追った。儚きもの、写真を撮り、記事にはしてみても、決して定着できない一瞬。記事もまた蛍の点滅よろしく、どこかへと消えうせて、今では行方もわからない。だからこそ良かった。

 

 アフリカのある地方では、年に一度だけ、大きな峡谷を蛍の光が埋め尽くす。しかしそこは前人未踏の地だ。ふんだんにばらまかれる光を、誰一人、見る者もいない。水を飲みに来たジャッカルやレイヨウの、黒いガラス球みたいな目玉に光が映る。その時、彼らが何を思っているのかはわからない。

 

 やがて、明滅する光は谷におさまりきれず、あふれ出ようとする。それは、間もなく明滅の時間が終わるしるしなのだ。人間とは無関係に存在する、底知れぬ豊かさ。限りない美。一瞬後に消えうせる、この世の奇跡。この世が存在すること、そのものの中に。