ユダヤ警官同盟
この秀逸なタイトルの小説は、アメリカのユダヤ系作家マイケル・シェイボンの作品。最近新潮文庫から翻訳が出た。アメリカでいくつも賞を受け、コーエン兄弟による映画化も予定されている評判の傑作。ただ、日本人が読むには少し背景の知識が必要で、多分そんなに売れないと思う。
この作品は基本的にハードボイルド・ミステリだが、設定はSF的なパラレルワールド。そして重い問いと流麗な文章は純文学のクオリティだ。この組み合わせ、実は最新作「1Q84」を含む村上春樹の多くの小説にも共通する。いま世界の文学的な想像力の向かう一つの方向のようだ。
「ユダヤ警官同盟」が舞台にしているのは、アラスカの架空のユダヤ人居留地「シトカ特別区」。欧州からの亡命ユダヤ人の受け皿としてアメリカが作ったものだが、2007年の現在、2ヵ月後にアメリカ政府への返還が迫っている。そしてこの世界ではユダヤ人国家としてのイスラエルは成立することなく流産。シトカ特別区廃止後のユダヤ人は行き場のない流浪の民と化することが決まっているという設定だ。この出口なしの状況の中で、ある殺人事件が起こり、心身ともに深い傷を負った中年刑事が解決のために走り回る。そして、特別区返還を巡る様々な勢力の思惑が絡み合う構図が浮かび上がってくる・・・。
なんでハードボイルドなのか。おそらくは複雑化した世界に、何者でもない一人の人間が向き合うたった一つの方法だからだ。簡単に踏み潰されてしまうどぶネズミのような小さな人間だからこそ、自らルールを設定し、おのれを賭けて大きなものに対して突っ張ることがドラマとなって立ち上がってくる。だからハードボイルドヒーローは基本的に人生をあきらめた中年男である必要があるのだと思う。そう言えば「1Q84」の主人公・青豆も、(女性だが)人生をあきらめた人物だ。「ユダヤ警官同盟」では、そんなハードボイルドの美学が、寄る辺無きユダヤ人の運命とも重ねあわされている。書いたように、日本人にとっては決して読みやすい作品ではないが、人生をあきらめかけている中年男女に薦めたい。結構来ますよ。

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