2009年6月アーカイブ: 演劇ユニットG.com

レナード・ベルタ

映画を見終わって4時。6時から川崎で仕事。急いでアテネフランセ文化センターを出て、御茶ノ水の駅に向かった。ふっと途中、駿河台の道を歩いていて思った。街路樹のプラタナスが風に揺れている。鳥たちのさえずりが聞える。

 

なーんて当然の事なんだけど、いい物に接した後って、日常に何かが付加されて輝いて見えることがある。その瞬間って、プルーストの言う「見出された時」や、小林秀雄『無常という事』の「思い出す事」に成るんだと思う。

 

 

はて、レナード・ベルタさんは、撮影監督です。ちなみに観た映画は、監督ストローブ・ユイレ(ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレの共同監督、ちなみに男と女。結婚はしてないのかな?)『アルテミスの膝』。20分ちょっとの短編です。

そんでもって、撮影がレナード・ベルタ。

 

ストローブ・ユイレ、ここ数年の作品、『労働者たち、農民たち』、『放蕩息子の帰還/辱められた人々』、『あの彼らの出会い』、『アルテミスの膝』は、ほとんど同じ作品。

明るい夏、シチリアの森での撮影。美しい木漏れ日。鳥のさえずり。川のせせらぎ。一塵の風と共に日が翳り、終焉する物語。

役者は、ほとんど素人(現地の農民役者をつかっているとかいないとか?)。ただ朗読もしくは暗誦しているだけ。ほとんどカメラは動かない。でも、延々と長い朗読の間にも、太陽は動いて、風は流れをかえる。そこがきちんと撮られてるんだよね。うーん美しい。

 

エリック・ロメールの『満月の夜』をみた、小津安二郎の撮影監督、厚田雄春さんが言ってた、

 

「あんまり立派なんで、終わりの方は耳ふさいで画ばっかりみてました。」(季刊 映画リュミエール 6 筑摩書房 所収 「恐れ入りました...ベルタさんのキャメラは完璧ですね 厚田雄春『満月の夜』を語る」)

 

分かるなあ、その気持ち。

 

ちなみに、『書かれた顔』(監督ダニエル・シュミット)で、坂東玉三郎、杉村春子、大野一雄を半ばドキュメンタリーで撮影したり。マストロヤンニの遺作、『世界の始まりへの旅』(監督、マノエル・デ・オリヴェイラ)も撮影してますよ。(岡田久早雄)

スラムドッグミリオネア

なかなかごっついエンタテインメントでした。 そう、インドというものを エンタテインメントにしたことがこの映画の一番の肝。

 

インドは欧米や日本の人にとっては「異文化」、しかし 気になる異文化だった。しかし、この映画の視点は、インドをあくまでもエンタテインメントの背景にしたこと。もちろん、インドでロケをし、インド人を使い、 色々インドの社会問題を取り上げ、観客(欧米や日本の人)にとってインド以外の何にも見えないようにしてある。事実インドに違いはないだろうが、でもそれはあくまでストーリーを盛り上げるための背景だ。別に異文化を理解しようという気持ちはない。もちろん、エンタテインメントにそんな必要もない。

 

ストーリーは、若い純粋な男女があらゆる障害を乗り越えて結ばれるまでを描いた純粋なラブストーリー。何せ、ラストシーンがファーストキスなのだから、いまどき欧米映画では描けないほどのピュアなロマンス。そこに、「クイズミリオネア」での全問正解を絡めている。問題の一つ一つがスラム出身の主人公の人生の場面に絡んできて、「どうして問題をクリアできたのか」が、人生の回想につながっていく。これは原作者(インドの外交官で、今度大阪総領事に赴任する人)の手柄だろうが、非常にうまい仕組み。

 

ラブストーリーも「クイズミリオネア」も、文化の壁を超えるもの。これを軸にして、後は異文化からエグくて受け入れにくいところを取り除き、話を盛り上げるスパイスにした。貧困や犯罪などの社会問題は若い二人が乗り越えるべき障害として描いた。

 

経済成長が続き、世界中の関心が高まっているインド。「ちょっとインドのことを知りたい」という世間の要望に巧みに答え、魅力的な回答を用意した形。行き届いたサービス精神に、見終わった後の満足感は大きい。監督以下関係者の頭の良さがしみじみと感じられる。そう、エンタテインメントとは結局、頭の良さを競うジャンルだと思う。

天安門事件から20年

天安門事件からきょうでちょうど20年になる。

 

20年前、大学生の私は隣の国の学生たちが天安門広場で繰り広げている民主化運動を、毎日テレビで見ていた。自分と同じ世代の若者たちが、大きな目標を掲げ、闘い、政府首脳らと対峙している。胸がすく思いだった。

 

6月4日の朝、ニュースを見た。粗い映像。走る戦車。銃声と叫び声。何が起きたのか、全然わからない。でも全てが潰えたことははっきりとわかった。どうしたらいいのかわからなくなって、その日一日、飯を食わないことにした。ハンガーストライキだ。でも、夜中の11時半にふと馬鹿らしくなって、カップうどんを食べてしまった。もしこのとき、自分がうどんを食わなかったからといって、何がどうなるわけでもなかったことは確かだ。

 

それから2年後、私は報道機関に就職したが、その選択にも、どこかで天安門事件の幻影が作用していた。自分にも大きなものを相手取って何かができるんじゃないか、という、よくも悪くも気負った気分。結局そんなことはなくその会社を辞め、今ふと気づいてみれば、中国人の若者たちに日本語を教えている。ちょうどあの頃生まれた20歳前後の若者たちだ。彼らは屈託がなくて明るい。

 

天安門事件を巡る大きな「?」。

私はさんざん大回りして、そのクエスチョンマークのカーブをたどるような人生を歩んでいる気がする。ふだん、天安門事件のことなどろくに思い出しもしないのに、気づくとそうなのだ。

 

学生リーダーのウアルカイシ氏が中国当局に出頭したそうだ。中国に帰るための手段だそうだ。彼の考えることはよくわからないが、必死なのは伝わる。一方、女性リーダーとして有名だった柴玲(Chai Ling)はアメリカでソフトウェア会社を経営。

http://www.jenzabar.com/aboutus.aspx?id=80

言うまでもないが、プロフィールには天安門の「て」の字もない。 天安門事件を今も生きる人と、完全に過去にした人。

 

天安門事件40年後の中国はどうなっているだろうか。(友田)

 

1Q84

村上春樹の新作「1Q84」を読んだ。どっかから書評の依頼が来るんじゃないかという期待があって、来なくて残念と思っていた(書評はもっと有名な評論家や作家のところに行ったようだ)けど、読んでみたら依頼が来なくてよかったという気持ちもある。結構微妙な作品だ。

 

ストーリーはまあまあ面白いと言っていいのかな。手に汗握るというほどじゃないが、上下巻を飽きずに最後まで読める。ハードボイルドタッチ。文章は読みやすいが、内容は決してわかりやすくない。そして、ところどころ「失われた」とか「力」とか、抽象的な言葉面だけで話が進んでいる気がするのがちょっと。ニューエイジっぽい疑似科学のにおいもある。少女と30男の性交も出てくるし、どうなんでしょう、これ。

 

ただ、それもどこまで本気かわかんないというか、全体がうまい具合に宙に浮いていて、解釈の自由があるから、真価が見極めにくい。一目見ていい小説という感じじゃないんだが、悪いとも言いがたい。いや、問題点は多いと思うけど、それも全部、無化されてくような。

 

私にとって村上春樹は高校時代から親しんだ青春の文学。友達と「あの店はおれたちの『ジェイズ・バー』(初期作品に出てくるバーの名前)だ」なんて言ってみたりね。今となっては恥ずかしいが、それだけに忘れがたい思い出。

 

しかし、今の村上春樹じゃ、なかなかそういうわけにも行くまい。60万部も出ているけど、どうなのかな。読んだ人は結構???だと思う。本当に判断が難しい本だ。(友田)

狂言を見た

職場(日本語学校で教えてます)に回ってきたチケットで、日中韓芸術祭と言うのに行った。荻窪の杉並区立公会堂というでかい箱物が会場。

 

外交関係の催しみたいで、在東京の中国人と思しき人たちがいっぱい来ていた。司会者は日中友好の歌を歌ってるとかいう知らない演歌歌手。その人が政治家の祝電をいっぱい読み上げる。目玉の一つが和泉元やの狂言だが、ワイドシューに一時出ずっぱりだった母親(和泉節子)が出てきて、「最近誤解している人もいますが」という前置き付きで和泉流の正当性をまくし立てた。まったく政治が絡むところには、どうしてこんなにろくでもないやつばかり出入りするのか。ただ券で何も考えずに行った催しもので、ピンクの着物を着たセッチーの怪気炎を見せられるのだから、人生、油断も隙もありゃしない。帰ろうかと思ったが、まあ取りあえず狂言を見ていこうと思って見てみたら、これがよかった。

 

ふだん見たことがないものだから、出来不出来はわからない。言葉も半分くらいは聞き取れなかったが、単純な話だから、聞き取れなくても困らない。一つの話は、太郎冠者と次郎冠者が、主人に隠れて蔵の酒を飲んでしまうので、主人に縛られる。主人は二人を放置して出かけてしまう。で、二人は「お前が酒を飲むから縛られた」「いやお前が」「要するに、自業自得というわけじゃな」とか言って「ハアッハッハ」と笑うのだが、これには参った。縛られてるのに「ハアッハッハ」ってあんた。

 

当時の庶民の人生は苦しく短いもの、大半は寿命四十にも届かず、看取る家族がいりゃ少しはいいが、太郎さん次郎さんには家族もいなさそうだし、いきなり縛るような主人がいるんじゃ、見通しは明るくない。だからこその、「ハアッハッハ」。苦しみの連続としての人生を、一瞬にして楽園に変える、大地の震えのような笑いを、聞いた。

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