レナード・ベルタ
映画を見終わって4時。6時から川崎で仕事。急いでアテネフランセ文化センターを出て、御茶ノ水の駅に向かった。ふっと途中、駿河台の道を歩いていて思った。街路樹のプラタナスが風に揺れている。鳥たちのさえずりが聞える。
なーんて当然の事なんだけど、いい物に接した後って、日常に何かが付加されて輝いて見えることがある。その瞬間って、プルーストの言う「見出された時」や、小林秀雄『無常という事』の「思い出す事」に成るんだと思う。
はて、レナード・ベルタさんは、撮影監督です。ちなみに観た映画は、監督ストローブ・ユイレ(ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレの共同監督、ちなみに男と女。結婚はしてないのかな?)『アルテミスの膝』。20分ちょっとの短編です。
そんでもって、撮影がレナード・ベルタ。
ストローブ・ユイレ、ここ数年の作品、『労働者たち、農民たち』、『放蕩息子の帰還/辱められた人々』、『あの彼らの出会い』、『アルテミスの膝』は、ほとんど同じ作品。
明るい夏、シチリアの森での撮影。美しい木漏れ日。鳥のさえずり。川のせせらぎ。一塵の風と共に日が翳り、終焉する物語。
役者は、ほとんど素人(現地の農民役者をつかっているとかいないとか?)。ただ朗読もしくは暗誦しているだけ。ほとんどカメラは動かない。でも、延々と長い朗読の間にも、太陽は動いて、風は流れをかえる。そこがきちんと撮られてるんだよね。うーん美しい。
エリック・ロメールの『満月の夜』をみた、小津安二郎の撮影監督、厚田雄春さんが言ってた、
「あんまり立派なんで、終わりの方は耳ふさいで画ばっかりみてました。」(季刊 映画リュミエール 6 筑摩書房 所収 「恐れ入りました...ベルタさんのキャメラは完璧ですね 厚田雄春『満月の夜』を語る」)
分かるなあ、その気持ち。
ちなみに、『書かれた顔』(監督ダニエル・シュミット)で、坂東玉三郎、杉村春子、大野一雄を半ばドキュメンタリーで撮影したり。マストロヤンニの遺作、『世界の始まりへの旅』(監督、マノエル・デ・オリヴェイラ)も撮影してますよ。(岡田久早雄)
